[前編]DXの本質は"ヒト"にあり――単なるデジタル化で終わらせないための秘訣とは?

クラウドベースのCRMやSFA、MAなどを展開し、ワールドワイドで15万社以上もの導入実績を有するSalesforce。
その豊富な実績に裏付けられた使いやすさ、柔軟なカスタマイズ性、サードパーティーとの連携能力、スタートアップから大規模企業まで使える幅広い対応力、高いセキュリティ性能と安定性などで、数多くの企業から高い評価を得ています。

そんなSalesforceの日本法人である、株式会社セールスフォース・ジャパン(以下、セールスフォース)で常務執行役員 コマーシャル営業統括本部 統括本部長を務める安田大佑氏に、日本企業が直面しているDXの現状、課題および解決方法、今後歩むべき方向性などについて伺いました。

※本インタビューは2022年7月に実施されたものです。

"本質的なDX"を見失いがちな日本企業

オプロ

まずは安田様のご経歴や主な活動についてお聞かせいただけますでしょうか。

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安田

新卒で人材派遣の企業に入社後、人事部門の人たちとの会話から外資系ITの世界に挑戦したいと思い転職。現在5社目になります。

セールスフォースに入社してからは、まず東京圏以外の北海道から沖縄まですべてのエリアを担当する部門の責任者を7年経験し、ここ3年間は「Sales Enablement」という人材育成関連部門の責任者を担当しました。そして今年度の2月から、コマーシャル営業統括本部の統括本部長を務めています。

オプロ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含む世界情勢の大幅な変化によって、企業の投資活動はどうしても慎重にならざるを得ない状況です。
一方で、数年前から訪れている"DX化"の流れは止められないという、企業としてはある意味で矛盾した環境の中で経営判断の是非を問われています。

こうした状況について、ITの側面からDX化をサポートされている御社としてはどのように感じられていますか?

 
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安田

マクロ的な観点からは、ここ数ヶ月で為替の影響による原材料の高騰もあり、特に製造業関係の方々は状況打破を真剣に考えられている印象です。状況が短期間で変化したのも大きいといえます。
また、今年から地政学的な問題も顕著化し、ある意味で社会経済システムが分断された状態で確立されつつあるので、やはりバリューチェーンを含めて作り直しをする必要が出てきていると思います。状況の変化に皆さんが追いつくというよりは、企業規模を問わず今後どうなるかを慎重に見極めようとしている感じがしますね。

また、IT投資やDXというキーワードが統合し、より広義になっているとも感じます。一般的に言われているDXは、おそらくハードウェア系が多いのではないでしょうか。
たとえば、リモートワークで出社せずにコミュニケーションや業務進行ができるなど従来と業務の形が変わったり、紙がデジタルに変わるのも媒体が変化しているというわかりやすい部分です。これらは確かに広義ではDXであり、実際にある程度の投資も進んでいますが、どちらかといえばシンプルなデジタル化やIT効率化と言えると思います。

本質的なDXという観点ではビジネスを変えていくためのデザインをする人たちが必要不可欠といえます。"ヒト"にフォーカスし、人々の考え方・動き方・思考、さらには文化までをデジタル起点で変えていくのがDXだからです。
しかし実際のところ、本質的なDXに着手したいと思っても、その方法論や実施のための人材育成、企業文化の変え方などが分からず、多くの企業が模索しているように見えます。

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オンラインでも"心と心のつながり"を重視する傾向へ

オプロ

確かにIT投資とDXという言葉が混在・混同されている感じはしますね。その他にも人的資本経営やリスキリング、リカレントなど、キーワードは断片的に知っているけれど理解が難しい、具体的な取り組み方法が分からないといった声も多いように感じます。

 
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安田

そうですね。たとえばリスキリングについて、弊社はご存じの通り米国の企業ですが、米国では退役軍人の方々に次のキャリアを積んでもらうべく、どのような方でもライセンスなしで使える「Sales Enablement」というe-ラーニングの仕組みを通じて、退役軍人とその家族の方々向けに、次のキャリア作りに必要な新しいスキルを身に着けてもらう取り組みを行っています。

弊社のサービスは、さまざまなお客様に使っていただくことで、企業内の業務効率化などに貢献しつつ、同時に試行錯誤された多大なノウハウを集積。それをさらなるカスタマーサクセスの実現に向けて反映できるのが強みです。
世界中の企業から努力の結晶がセールスフォースという会社に集まり、私たちはそこから「こんなやり方があるんだ」と学び、体系化によってより多くのお客様に受け入れやすい形へと変化させて、提案活動や定着化支援に活かしています。

こうした流れから、セカンドキャリアを支援する仕組みなど、日本企業のリスキリングに活用できると思っています。弊社ではお客様のことを「Trailblazer(先駆者)」と呼んでいますが、テクノロジー面だけでなくコミュニティの面でもサポートすることで、Trailblazerのキャリアをより高い精度で変えられるのです。

オプロ

退役軍人の方々に向けたセカンドキャリアの支援は国家的な課題でもあるだけに、非常に興味深いですね。一方で日本国内においては、ここ数年の大幅な環境変化によってムーブメントが変わったり、加速度的に進んだことなどはありますか?

 
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安田

やはりリモートワーク環境を強いられるようになったのは大きな変化ですね。私が在籍していたSales Enablement部門はオンライン上で毎日顔を合わせて世界中の方々と連携し業務をこなしていたためリモートワークになってもギャップを感じませんでした。

しかし日本のカルチャーとして、オフィスに朝出社して集まるというのは非常になじみのある習慣ですので、コネクションに対する皆さんの考え方が変化したのではないでしょうか。
人と人のつながりは、単純に対面で会うだけでなく、オンラインであってもできるだけ"心と心をつなげる"ようにする。こうした本当の心のつながりをマネジメントや人事、人材育成などさまざまな立場から、皆さんが考え始めたように感じています。

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重要なのは将来的な価値観・世界観を理解してもらうこと

オプロ

安田様はセールスフォースにおいて中小企業領域の責任者をされていますが、そうした規模のお客様に対して、大きなテーマを前にどのような部分から一歩目を踏み出すよう支援されていますか?

 
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安田

セールスフォースのツールはCRMやSFAなどが中心であり、情報をベースとして企業活動およびお客様との歴史をしっかりと管理していくものです。たとえばSFAは、効率的・効果的なプロセスマネジメントによって生産性を向上させます。

私たちが求めているのは、あくまでも製品や機能自体ではなく、それらによって人間の行動・動作を変えていくことです。人々の動作が変われば効率化につながり、結果としてさまざまな数値が変わってきます。お客様との接点時間が増えます。残業時間が減れば、当然ながら活用できる時間も増えるでしょう。その時間を使って、従来できなかった新しい活動を生み出せるわけです。

また、情報共有によって暗黙知や相互理解のレベル感が社内外を含めて大幅に上がる、というのも大きいですね。たとえばセールスフォースでは、目標管理の仕組みとして「V2MOM」というグローバルで共通した管理手法を採用しています。
これは全社員が毎年1回、「ビジョン(Vision)/価値(Values)/方法(Methods)/障害(Obstacles)/基準(Measures)」を記載・更新するというもので、初めてミーティングをする時でも事前に相手のV2MOMを確認しておけば、お互いにコミュニケーションの理解度が大幅にアップします。そうなると会話の内容が変わり、お互いのことを知ろうと思えるわけです。

こうした積み重ねの先には、本当に意味のあるやり取りや活動に集中しようといった動きが生まれます。形式的・儀式的な会議をやめて生産的な未来志向の会議に変えていこう、前例主義に対して本当に意味があるのか健全に疑いをかけていく、情報共有に対する価値観が上がるなど、働く上での価値観が次々と変わってくるのです。

お客様にこうした話をすると、皆さんは全員「そうあるべきだよね」とおっしゃいます。しかし、この変化は単純にツールを導入しただけでは起こりません。こうした価値観・世界観は、ツールを導入した上で動きの変化があり、心理的な変化があり、見えるものが変わってきた先に存在するものなので、私たちはこの一連の行動変化からのプロセスをバリューにしたいと思っています。

そこで先ほどの問いに戻りますが、まずはCRMやSFAなど具体的な機能よりも、こうした将来的な価値観・世界観を先にご説明することで、自社内に新たな文化を成立させながら次の世代に則した会社に変えていきましょう、とアプローチしています。

オプロ

安田さん、貴重なお話ありがとうございます。引き続き後編では、ツールを導入したお客様とどのように関係を構築していくのか、内製化を進めていく企業に必要な姿勢などを伺っていきます。
後編はこちらよりご覧ください。

後編はこちら

<プロフィール>

安田 大佑(やすだ だいすけ)

株式会社セールスフォース・ジャパン
常務執行役員 コマーシャル営業統括本部 統括本部長

1977年北海道生まれ。2000年にデルコンピュータ株式会社(現デル・テクノロジーズ株式会社)に入社。営業マネージャーとして法人担当、コンシューマ担当部門の責任者を務めた後、中国の大連では同社オペレーションサイトマネジメントに従事。2008年、IT企業向けにマーケティング戦略立案と実行の受託業務を展開しているアメリカのMarketstar Corporationの日本代表に就任。2010年、クラウド型セキュリティのイギリスのMessagelabs(現在はBroadcom Inc.)にコーポレートセールス シニア マネージャーとして入社。2012年、株式会社セールスフォース・ドットコムに入社。主に首都圏以外の地域を担当する広域部門の責任者として地域創生とデジタルトランスフォーメーションの推進を経験。2019年、Sales Enablement(営業人材開発)部門の責任者に着任。パンデミック、リモート環境下における人材育成モデル開発に従事。2022年より、コマーシャル営業の統括責任者に着任。

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