ARR(年間経常収益)とは?計算方法や重要性、伸ばす方法3選を解説

現代のSaaSビジネスにおいて、ARR(年間経常収益)は企業の成功を測る重要な指標です。ARRは、年間でどれだけの定期収益を見込めるかを示すものであり、長期的なビジネスの健全性を評価するのに役立ちます。この指標を理解することで、ビジネスの現在の状況や将来の予測が可能になります。

本記事では、ARRの基本的な概念から計算方法、ビジネスにおける重要性、そして増加させるための具体的な方法について解説します。

ARRとは

ARR(年間経常収益)は、年間に得られるサブスクリプションの総収益を指します。これは、ビジネスの財務状態を評価し、将来的な収益予測を行うための重要な指標とされています。具体的には、月次経常収益(MRR)を12倍することで計算されます。

ARRは、ビジネスの継続性や成長性を評価するための重要な指標です。

MRRとの違い

ARRMRR(月間経常収益)は、収益を評価するための異なる指標です。ARRは年間ベースでの収益を表し、長期的なビジネスの健全性を評価するのに対し、MRRは月間ベースでの収益を示し、短期的なパフォーマンスを評価する際に使用されます。

つまり、MRRは月次の収益変動を追跡するのに役立ちますが、ARRは年間を通じての収益見通しを示すため、より長期的な視点での判断が可能になります。

NRRとの違い

ARRNRR(売上維持率)はどちらも重要な財務指標ですが、異なる概念を持っています。ARRは年間での定常的な収益を示すのに対し、NRRは顧客の維持やアップセルなどを考慮した収益の変動を測定します。

例えば、ARRは単純に年間契約から得られる収益を計算しますが、NRRは既存顧客のアップセルやクロスセル、新規顧客獲得または解約を含めた純収益の変動を計算します。

売上高との違い

ARRと売上高は混同しがちですが、異なる指標です。ARRは、年間で予測される定期収益を示し、売上高は、特定の期間における企業の総収入を示します。これらの指標は異なる視点からビジネスを評価します。

例えば、ARRSaaSのようなサブスクリプションモデルのビジネスによく用いられ、年間契約収益を予測します。一方、売上高はある期間に販売した製品やサービスの総収益を表します。ARRは将来の収益を予測するのに対し、売上高は過去の成果を反映する指標です。

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ARRの計算方法

ARR(年間経常収益)は、SaaSビジネスにおいて重要な指標です。このセクションでは、ARRの計算方法について詳しく解説します。具体的には、MRR(毎月の経常収益)からARRを導き出す方法と、その際に注意すべきポイントについて説明します。

ARRの計算に必要なMRRの種類と計算方法

ARR算出に必要なMRRの計算方法を知るためには、その算出に必要な要素として、MRR4つの種類を把握しておく必要があります。

 

MRRには、以下の4つの種類があります。

1.       New MRR:当月に獲得した新規顧客からの月間収益

2.       Expansion MRR:継続利用した顧客のプランのアップグレードや、オプション等の追加で得られた月間収益

3.       Downgrade MRR:継続利用した顧客のプランのダウングレードや、オプションの解約等で減少した月間収益

4.       Churn MRR:当月にサービスを解約した顧客分として減少した月間収益

 

サービススタート月のMRRは、以下の計算式で求められます。

MRR = 月額利用料金 × 顧客数

 

サービススタート翌月からは以下の計算式で当月のMRRを求めます。

当月のMRR = 前月のMRR +New MRR + Expansion MRR-Downgrade MRR + Churn MRR

 

例えば、サブスクリプションのスタートアップで月額100,000円のプランに10社の新規顧客から申込みがあったとしましょう。この場合のMRRは「100,000円 × 10 = 1,000,000円」と算出できます。

翌月、同サービスでさらに新規顧客を15社獲得、2社が解約したとしましょう。顧客単価の変更やダウングレードが発生していないと仮定するとこの月のMRRは以下のようになります。

1,000,000 + (100,000円 × 15社 - 100,000円 × 2社) = 2,300,000

 

提供しているプランが複数ある場合は、プランごとのMRRを算出するようにしましょう。プランごとにMRRを算出することで、LTVが高いプランと顧客層を知ることができます。

ARRの計算と注意ポイント

正確なARRの計算は、ビジネスの健全性を評価するために極めて重要です。計算方法が不正確な場合、ビジネス戦略の誤った判断に繋がる可能性があります。計算において注意を要するのは、定期的な料金の変更や顧客のアップグレード・ダウングレードを正確に反映することです。

また、SaaSビジネスでは、MRRの変動に注意が必要です。月次収益が増加傾向にある場合、ARRも比例して増加しますが、減少傾向にある場合は逆も然りです。このような変動を適切に管理し、予測可能な収益モデルを構築することが重要です。企業はARRをもとに、将来の資金調達や投資計画を策定する場合が多いため、正確なデータが不可欠です。

ARRがSaaSビジネスで重要な理由

SaaSビジネスにおいて、ARRが重要視されているのは、どのような理由からでしょうか。ここでは、ARRがなぜSaaSビジネスにおいて重要であるかを解説します。

ビジネスの健全性や将来を確保できる

ARRは、ビジネスの健全性や将来の予測に役立ちます。ARRは年間の収益を予測する指標であり、ビジネスの安定性や成長可能性を評価するのに重要です。

例えば、ARRが安定して増加しているビジネスは、新規投資や開発に自信を持って進めることができます。また、ARRが減少している場合、迅速な改善策を講じる必要があります。ビジネスの健全性や将来性を予測するためには、ARRの定期的な把握が不可欠です。

第三者が企業を評価する判断材料になる

ARRは、第三者が企業の健全性を評価する重要な指標となります。安定した収益を示すARRは、その企業が長期的に優れたパフォーマンスを発揮し続ける能力があるかどうかを示し、投資家や金融機関がリスクを評価する際に役立ちます。

例えば、ARRの高い成長率を示す企業は、投資家から高い評価を受けやすく、資金調達や株式市場での評価にも好影響を与えます。また、金融機関はARRを参考に融資のリスクを低減することができます。ARRは企業の成長力を示す指標であり、第三者による評価の基準となります。

ARRが示す安定性と成長力は、経営の持続可能性を判断する上で欠かせない要素となります。企業が実際にどの程度の収益を継続的に得られるのかを可視化することで、外部の利害関係者がその企業に対する信頼度を測ることが可能です。結果として、ARRが高い企業は、新規投資や提携などのビジネスチャンスを増やしやすくなります。

顧客獲得・維持の傾向がわかる

ARRを分析することで、顧客獲得と維持の傾向が見えてきます。定期的な収益データは、企業がどの程度新規顧客を獲得し、既存顧客を維持しているかを示す重要な指標となります。

例えば、ARRが上昇している場合、新規顧客の獲得や顧客のアップセルに成功していることを意味します。一方、ARRが横ばいや減少している場合、顧客がサービスを離れている可能性があります。顧客獲得と維持の傾向を把握することで、ビジネス戦略を適切に調整することができます。

ARRを増加/改善するには

ARRを増加または改善させるためには、特定の戦略や施策が必要です。ここからは、一般的に効果的と言われている具体的な方法について解説します。

新規顧客の獲得、既存顧客のアップセル/クロスセル、およびダウングレードや解約率の低下の3つの主要な方法に分けて解説していきます。

新規顧客の獲得

新規顧客の獲得は、ARRを増加させる最も直接的な方法です。SaaSビジネスにおいて、新たな利用者を増やすことにより定期的な収益が増加するため、ARRの向上が期待できます。

例えば、有効なマーケティングキャンペーン、デモの提供、無料試用期間(トライアル期間)の設置などが新規顧客を引き付ける戦略として挙げられます。このような戦略を活用して新規顧客の獲得を最適化することで、ARRを大幅に向上させることが可能です。マーケティング活動やプロモーションを通じてターゲット市場に自社の製品やサービスの魅力を効果的に伝えることが、新規顧客の獲得には非常に重要です。

既存顧客のアップセル/クロスセル

既存顧客へのアップセルやクロスセルは、ARRを増加させる効果的な方法です。製品やサービスを継続利用している既存顧客はその利用に価値を感じ、満足していると考えられます。そのため、追加のサービスや高価なプランへの移行を提案することで、収益を増やすことが可能になります。

例えば、基本プランからプレミアムプランへのアップグレードや、関連サービスの追加購入を促すことが考えられます。セミナーやワークショップを通じて新しい機能や製品の利点を説明し、顧客に価値を提供します。こうした取り組みは、既存顧客の満足度と忠誠度を高め、長期的な関係を築くためにも非常に有効です。満足度が向上することで、顧客の離脱を防ぎ、結果としてARRの持続的な成長に繋がります。

アップセルやクロスセルの成功には、顧客のニーズや利用状況を正確に把握することが鍵となります。データ分析やマーケティングオートメーションツールを活用し、個々の顧客に適した提案を行うことで、より効果的なアップセルとクロスセルが実現します。

ダウングレードや解約率の低下

ダウングレードや解約率の低下は、ARRの増加に直接影響します。顧客がプランをダウングレードしたり、解約したりすると、ARRが減少するため、これを防ぐことで安定した収益を維持しやすくなります。

例えば、サブスクリプションサービスで提供する価値を定期的に見直し、顧客満足度を高める工夫を行うことで、ダウングレードや解約を抑制できます。具体的には、顧客のニーズに応じた新しい機能を追加したり、問題解決の迅速なサポートを提供することで顧客満足度を向上させることが考えられます。顧客に対し能動的に提案や助言をおこない、顧客の事業の成功に向けて伴走する「カスタマーサクセス」の取り組みも、効果的な方法のひとつです。

また、顧客に対して定期的なアンケートを実施し、フィードバックを元にサービスの改善を行うことも効果的です。

ダウングレードや解約率を低減することは、安定した収益基盤を築くために重要です。特に競争が激しいSaaS市場においては、顧客の継続的な利用が企業の成長と収益性に直結します。顧客維持の取り組みを強化することで、長期的な成功を実現できるでしょう。

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アップセル/クロスセルや解約率を可視化できる販売管理サービス「ソアスク

まとめ

ARR(年間経常収益)は、以下の点からSaaSビジネスにおける重要な指標であるといえます。

 

l  企業の継続的な収益性や成長性を示すため、ビジネスの健全性や将来の予測に役立つ

l  第三者が企業を評価する判断材料となり、株価の上昇や追加投資を引き寄せる可能性がある

l  顧客獲得や維持の傾向も把握でき、将来的なビジネス戦略の構築に役立つ

 

このようなARRの特徴を理解して、計画的に改善を図るための施策が、SaaSビジネスを成功に導く上で重要になります。

具体例として、次のような施策が挙げられます。

 

l  新規顧客の獲得や顧客維持率を向上させるための施策(セミナー・ワークショップなど)

l  解約率を低下させるための顧客満足度向上施策やダウングレードの回避策(カスタマーサクセス・アンケートなど)

総じて、ARRは企業の収益構造や持続可能な成長を可視化するための重要な指標であり、その向上に向けた取り組みが求められます。

(執筆:サビ研編集部)

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この記事のライター
サビ研編集部 オプロボット
サビ研編集部 オプロボット

サブスクリプションビジネス研究のため、サブスクの情報だけを発信し続けます。

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