2024年08月06日 公開
T2D3とは?SaaS企業が急成長を遂げるための成長戦略
スタートアップ企業の成長戦略として注目を集めているT2D3。この概念は、急速な成長を目指す企業にとって重要な指標となっています。本記事では、T2D3の意味や目的、日本における適用方法、そしてIPOに向けた管理のポイントについて詳しく解説します。T2D3の全容を理解し、自社の成長戦略に活かしていきましょう。
T2D3とは?
T2D3は「Triple, Triple, Double, Double, Double」の略で、SaaS企業の急成長戦略を表す指標です。PMF(Product Market Fit)後の売上を5年間で「3倍、3倍、2倍、2倍、2倍」にするという目標を示しています。
この戦略は、アメリカのベンチャーキャピタル「Battery Ventures」のキャピタリスト、Neeraj Agrawal氏が提唱し、急速に普及しました。
T2D3を達成できれば、わずか5年で売上を72倍に伸ばすことができるため、多くのSaaS企業がIPOを目指す際の指針となっています。この成長モデルは、PMFを確立した後に爆発的な成長を促進し、投資家からの注目を集める効果的な方法として認識されています。
PMFとは?
PMF(Product Market Fit)とは、製品やサービスが市場のニーズに適合し、ユーザーから強い支持を得ている状態を指します。PMFを達成すると、製品の需要が急激に増加し、事業の成長が加速します。
多くのスタートアップにとって、PMFの達成は重要なマイルストーンとなります。PMFを実現するために、ユーザーの声に耳を傾け、製品を継続的に改善し、市場のニーズに製品を合わせていく必要があるのです。
日本におけるT2D3
T2D3は国内のSaaS企業でも注目されています。しかし、日本の市場規模や投資環境の違いから、そのまま適用するのは難しいとされています。そのため、日本の実情に合わせた「日本版T2D3」の考え方が提唱されており、日本独自の成長モデルの構築が進んでいます。ここからは日本にはどのようなT2D3モデルがふさわしいのかを考えていきましょう。
何のためのT2D3か
SaaS企業・スタートアップ分析メディア「Next SaaS Media Primary」を運営する早船明夫氏は、日本でのT2D3について次のように述べています。
ここで「何のためのT2D3か」に立ち返ると、ポイントの一つは、企業価値評価10億ドル(米国での)を超えてIPOに向かうことができるかという点だと思います。BVP Nasdaq Emerging Cloud Indexの採択企業の時価総額の下限もおおよそこの水準です。
Next SaaS Media Primary 運営 早船 明夫「これまでの国内SaaS T2D3の話をしよう」より引用
グローバルでのT2D3は、企業価値評価10億ドルを超えてIPOを目指すための成長戦略です。IPOを目指すSaaSスタートアップが、短期間で大きな成功を収めるための指針となります。
明確な目標を掲げることで、投資家の注目を集め、資金調達を容易にすると共に、急成長を実現することで、市場シェアの拡大や競合他社との差別化を図れます。このフレームワークを活用することで、スタートアップは短期間で大きな成功を収め、IPOへの道筋を確立することができるのです。
日本版 T2D3のイメージ
日本ではどうなのかみていきましょう。
これを「日本版」で考えると、株式市場で機関投資家の投資スコープとして時価総額1,000億円程度、また国内SaaS市場におけるPMF目安をARR1~2億円程度ととして、T2D3を刻み、ARR100億円に到達していくようなイメージが実態に合っていそうです。
Next SaaS Media Primary 運営 早船 明夫「これまでの国内SaaS T2D3の話をしよう」より引用
日本とアメリカは投資の制度や環境が違うため、それぞれの市場に適したフレームワークが必要です。アメリカでは、スタートアップ企業が比較的容易に大規模な投資を受けやすい環境が整っており、資本市場の規模が日本よりも圧倒的に大きいです。また、経済規模を示すGDPも日本はアメリカの6分の1しかありません。したがって、日本版T2D3では、国内の市場で現実的に達成できる目標に調整する必要があるでしょう。
日本の株式市場では、機関投資家の投資対象として時価総額1000億円程度が一つの目安となっています。また、国内SaaS市場におけるPMFの目安としては、年間経常収益(ARR)1~2億円程度が設定されています。
このような基準を踏まえると、日本版T2D3では、ARRを1〜2億円から段階的に倍増させていき、最終的にARR100億円に到達することを目指すのが、現実的な成長戦略と言えるでしょう。
IPOとは
IPO(Initial Public Offering)とは、未公開企業が株式を公開し、証券取引所に上場することを指します。これにより、一般投資家が株式を購入できるようになり、企業は大規模な資金調達が可能となるのです。IPOは企業の成長戦略において重要なマイルストーンであり、経営の透明性向上や社会的信用の獲得にもつながります。
ただし、上場には厳格な審査や法的要件の遵守が求められ、準備には多大な時間と労力が必要です。T2D3はIPOを成功させられる安定した財務基盤と成長性、管理体制を5年間で整えるための成長モデルと言えるでしょう。
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IPOするために必要な管理
IPOを成功させるためには、企業の財務状況や業績を適切に管理することが不可欠です。様々な管理が存在しますが、SaaSビジネスにおいては特に、価格管理、契約管理、KPI管理の3つの側面に注力する必要があります。ここからはこの3つの管理方法について詳しく見ていきましょう。
価格管理
SaaSのプライシングは、ARRに直接影響を与え、IPOへの道筋やT2D3の達成に重要な役割を果たします。価格設定が適切でなければ、ARRは最大化できません。高すぎる価格はユーザー獲得を困難にし、早期解約リスクを高め、アップセル機会を逃します。一方、低すぎる価格では本来獲得できた収益を逃し、品質に対する投資の制限や、製品価値の低下に繋がります。
適切な価格設定により、顧客生涯価値(LTV)が最大化され、ARRの持続的な成長が促進されるのです。継続的な価格の見直しと市場適応は、長期的なARRの成長と企業価値の最大化に不可欠と言えるでしょう。
契約管理
契約管理も、SaaSビジネスにとって非常に重要な要素です。SaaSはユーザーとの契約関係が複雑になることがあり、それらを適切に管理できていなければ、事業の拡大は困難だからです。
具体的には、契約期間、課金モデル、契約プランなどを明確に定義し、システム上で一元管理することが求められます。さらに、プラン変更やオプション追加、解約などに、ユーザーの希望するタイミングですぐに対応できる体制を整える必要があるでしょう。
このような管理はExcelやGoogleスプレッドシートでも運用することができますが、顧客数や企業規模が拡大するに従って管理が難しくなるため、専用の管理ツールの導入が必要となります。
KPI管理
KPI管理も、IPOを目指す企業にとって非常に重要です。KPIとは主要業績評価指標の略称で、これを設定し、定期的に測定・分析することで、企業の成長と健全性を把握できます。
特に、MRR、ARR、ARPU、CAC(顧客獲得費用)、LTV(顧客生涯価値)、解約率などのSaaS企業特有のKPIを重視する必要があります。
ARR(Annual Recurring Revenue)とMRR(Monthly Recurring Revenue)は、T2D3達成のために重要です。ARRは年間の継続的な収益を、MRRは月間の継続的な収益を表します。これらの指標は、ユーザーの継続利用や新規獲得の状況を反映し、企業の安定性と成長性を評価する上で欠かせません。投資家やステークホルダーにとっても、事業の健全性を判断する重要な基準となっています。
その他のKPIについては以下の関連記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
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KPIの管理に失敗した場合、事業が順調に成長しているか、どこに課題点があるか、などが正確に把握できなくなります。その結果、リソース配分が非効率になり、ARRの成長鈍化に繋がります。T2D3を達成できる可能性も低くなるでしょう。
T2D3を達成するためには、KPIに基づいて迅速な意思決定を行い、必要に応じて戦略を見直していくことが重要なのです。
まとめ
T2D3はIPOを目指す上で重要な成長モデルですが、日本版T2D3はグローバルなT2D3とは少しイメージが異なるので注意が必要です。PMFさせた上で、価格管理、契約管理、KPI管理などの体制を整備し、ARRの急速な成長を促進することでIPOに向けた道筋が開かれます。自社の状況や市場環境を分析し、T2D3モデルが自社の成長戦略に適しているかどうかを検討することが重要です。
(執筆:サビ研編集部)
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