[後編]DXの本質は"ヒト"にあり――単なるデジタル化で終わらせないための秘訣とは?

クラウドベースのCRMやSFA、MAなどを展開し、ワールドワイドで15万社以上もの導入実績を有するSalesforce。
その豊富な実績に裏付けられた使いやすさ、柔軟なカスタマイズ性、サードパーティーとの連携能力、スタートアップから大規模企業まで使える幅広い対応力、高いセキュリティ性能と安定性などで、数多くの企業から高い評価を得ています。

そんなSalesforceの日本法人である、株式会社セールスフォース・ジャパン(以下、セールスフォース)で常務執行役員 コマーシャル営業統括本部 統括本部長を務める安田大佑氏に、日本企業が直面しているDXの現状、課題および解決方法、今後歩むべき方向性などについて伺いました。

今回はインタビュー記事の後編となります。前編をまだお読みになっていない方は、先にこちらをご覧ください。

※本インタビューは2022年7月に実施されたものです。

"細胞で学び"ながら"人間力"を身に着ける

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オプロ浮田

ツールを導入しただけでは変わらない、まさにおっしゃる通りですよね。実際にこれを聞かれたお客様はどのようなリアクションをされますか?

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安田

皆さん賛成されて、実際にやろうとしている、やったことがある企業も多いです。ただ、それでも上手くいかない企業にはなにかしらの課題があり、そして課題の本質的理解ができていないケースが大半といえます。

セールスフォースは実際に使っていただいて、継続的に価値を感じてもらうために定着支援やカスタマーサクセスも大事にしており、そうした観点から「なにが課題なのか」「なぜ上手くいかないのか」を常に研究しています。その研究成果は、たとえばCSG(カスタマーサクセスグループ)経由でお客様ごと、もしくはセミナー単位での支援に役立てています。

お客様自身からは見えない・気づかない原因に対して、多くの支援実績から得たノウハウを提供することで、「じゃあやってみよう」「それなら変わるかもしれない」といった期待に変える。それがセールスフォースの進め方です。

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オプロ浮田

「頭では理解していても、なかなか行動に結びつかない」というケースも多いと思うのですが、そうしたお客様との信頼関係を築いていく上で、特に注力されていることなどはありますか?

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安田

やはり"人間力"だと思います。身も蓋もない言い方になってしまいますが、人は結局"好き"か"嫌い"かというような右脳的な心で考えることは多いですよね。

その辺りは、弊社のコアバリューのひとつ"Trust"にも示されています。実際のところ、人間力を鍛えるのはとても難しいですし、一人ひとり個性が違うのと同じように人間力の見せ方も違います。ただ、相手の気持ちをどのような状態にしたいのかという点について、考え抜いて、それに基づいて行動や言動をどのようにデザインしたら良いかというベースは共通しています。
普通はなかなかそこまで考えられないのですが、考えるよう導いたり、問いを立てるのはとても大事だと思います。

もうひとつは、お客様がマイナスに感じる瞬間をいかに消せるかですね。これも単純なテクニックだけでなく、注意するべき点が数多くあります。

たとえば世代的に見ると、情報がこれだけあふれている世界で幼少期を過ごしてきた世代の方々は、体感的な学びで気付いているというよりは、形式的にインターネットやSNSなどでインプットしているケースが多く、それで分かった気持ちになれてしまうのです。
こうした環境で自分の知識や考え方を形成していると、いざなにかを実行しようとした時に上手くいきません。頭で覚えているのと、細胞が動くのは別次元の話ですから。

たとえばプロゴルファーのスイングを連続写真や動画で見て、いくらポイントを分かっていたとしても、実際に細胞が覚えていなければ同じ動きはできません。これは対お客様とのコミュニケーションなど現場の支援でも同じで、いかに体感的に学んでもらうかというのは、今後の新しい人的資本経営にもつながります。
本当の意味での人材育成は"細胞をアクティベートさせる"ことであり、そこを意識したコーチングやティーチング、育成のプログラムを組んでいく
必要があります。その結果、お客様の悩みをしっかりと理解し、人間同士のつながりを構築した上で、目の前の山を一緒に越えていくための提案ができるわけです。

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オプロ浮田

最先端のクラウドベンダーとしての営業手法が確立されている一方で、人間味あふれる、ある意味でアナログ的な部分についても体系的に社内へ展開していくのは難しそうですね。

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安田

まだ体系化できているかは微妙なところですが、そうした部分を意識的に日々のコミュニケーションで発信し続けるようにしています。かなりウェットな話ですが、積み重ねが本当に強い営業カルチャーを作りますから。

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オプロ浮田

やはり地道に時間をかけて伝え続けることは重要なのですね。

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安田

人の心に信頼を作る上で継続は大事ですね。あとは継続の見せ方というのもポイントで、本質的には同じ内容でも、ワードが違うと同じに聞こえなくなってしまうケースがあります。テレビCMなど広告のコピーもそうですが、同じセリフを言い続けていくと、それが頭の中に残って継続性の高い印象となるわけです。

そしてもうひとつ、組織内で良いカルチャーを作ることも大事ですね。本当に伝えたい思いを、シンプルな言葉にするとどう表現できるのか、それをどのタイミングでどのように言い続けるのかなど、コミュニケーションをデザインするところが、これからの組織を作っていく人にはとても重要です。

これらはお客様対応の面でも同じで、お客様が「やってみようかな」と心が動く時は、私たちのメッセージが届いた証です。インプットによって心が動く、この瞬間の積み重ねが大きな決断につながっていくと考えると、私たちの言葉や資料、デモンストレーションなどあらゆるものの質が高くなければいけません。
質を高めようとすれば、本来は当然ながら時間がかかります。そこで具体的な良いセリフやスライドなどを集め、共有することで組織の英知に変える。この点は意識的にしっかりと作り込んでいます。

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オプロ浮田

ノウハウを凝縮したテンプレートから、あまり表現を変えずに言い続ける方が良いのでしょうか?

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安田

基本さえ押さえられれば、その上に個性を追加しても良いと思います。「この通りにやってくれ」と強制しても、自分たちの工夫が反映されなければ、やる気を削がれたり、なぜそれをやる必要があるかも理解されません。

そのセリフを言った時に相手の反応『このセリフのなにが良かったと思うか』といったダイアログを経由した上で、お客様に期待してほしい内容を十分に理解できたら、その内容を自分流にどうやって表現できるかを考え、ここで初めて応用として一歩前に進めるわけです。

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オプロ浮田

そうしたトレーニングを積んだ社員の皆さんがお客様と相対しているのですね。

高品質・高価値なビジネスに向けて国全体がシフトする必要性

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オプロ浮田

人的資本経営の中でも内製化というキーワードがありますが、これに対するお客様の反応や、実際に内製化への支援や行動変容について気を付けてらっしゃるポイントはありますか?

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安田

Sales Enablementの中でも、「Trailhead Academy」という有償の製品トレーニングや資格試験を運用しているチームを担当していたことがあります。こちらは従来パートナーさんの資格取得に使われるケースが多かったのですが、ここ数年はユーザー企業の方でも「自社でセールスフォースを使える人材を配置したい」という理由から、試験やトレーニングを受ける比率が増えていました。

内製化を進めるには、やはり専門知識を持った人材に投資・育成する必要があると感じます。これはリスキリングの観点でも、人的資本経営の取り組みを対外的に見せる時にも重要です。
あとは"トライ&エラー"で試行錯誤しながら学ぶ、いわゆるアジャイル思考ですね。日本企業の中でも、従来のレガシー畑でやってきた経験者の中には、"失敗させたくない"という職人気質の責任感が強い方々もまだ多くいらっしゃいます。しかしこれはあくまでもクラウド以前の進め方であり、クラウドにはこうした失敗を補える仕組みがあるからこそ、走りながら修正した方が良いのです。

内製化には「1回の成功を導き出すために9回の失敗が必要工数」というくらいの前向きな考え方が必要で、失敗を許容する代わりに失敗からの学び方を意識しながら進める。こうしたアジャイル思考への変革は、経営者層を含めてぜひ進めていくべきです。

あとは、実際に手を動かして"細胞で覚える"ことですね。内製化といってもセールスフォースの場合、ダッシュボードや日報のフォーム程度であれば簡単に作成できます。知らなければそれが"難しい"と感じてしまうので、お客様のペースに合わせて一緒に伴走しながら支援するようにしています。

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オプロ浮田

中小企業では規模的に、マイスター的な人材をアサインするのが難しいようなリソース状況だったりする場合もありますか?

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安田

やはり人的リソースの悩みはどこも抱えていますね。そこは製品自体の使いやすさを活かすとともに、システム構築の際に理解度の高いパートナーさんに入っていただき、トレーニングやマニュアルの充実を図ってもらっています。対象となる人材の経験や理解度を見ながら進める感じですね。

どうしても人的リソースの確保が難しい場合、アウトソースやSaaSによるシステム構築だけを請け負う企業に依頼する方法もあります。中長期的に見て、こうしたビジネスはさらに増えてくるでしょう。

デジタル人材という定義は難しいですが、これからの世代を考えると自ずとデジタルフレンドリーな人々が増えていくと思います。人口の減少を受けて高福祉国家へと変革を遂げたスウェーデンのように、日本でも長期的な観点ではこうした構造になっていくでしょう。
実際、今年の6月にはイノベーション人材50万人育成を目指し、セールスフォース・ジャパンを含む49の団体が参画する「日本リスキリングコンソーシアム」が発足しました。国内人口が減少を続ける中、どのようにGDPを最大化していくかを考えれば、高品質・高価値なビジネスができるように国全体がシフトする必要があるのです。

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オプロ浮田

こうした変革の中で、企業内において注意するべきポイントなどはありますか?

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安田

経営者やリーダー層の決意と行動変化が一番大切だと感じます。実際に弊社のユーザーで成功している企業の共通点は、"トップが覚悟を持った"ケースがほとんど。もちろんボトムアップで成功した企業もありますが、トップダウンで先導した方が成功率は圧倒的に高いです。そうした意味では、トップやリーダーがどのように振る舞うのか、というノウハウの共有も必要ですね。

失敗を恐れることなく変化につなげる

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オプロ浮田

IT投資を支援する立場として、今後どのようなマーケットの動きになっていくと予想されていますか?

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安田

数多くのお客様から継続してお問い合わせを頂戴していますし、新規ユーザーになっていただくことでの成長機会はこれからも多くあります。そしてすべての企業活動にはお客様およびそのデータが存在するので、これを連携させながらデータドリブンや効率化を目指すというニーズは高いです。

しかし一方で、それを使いこなし、効果を出すための支援方法は多岐にわたります。そうした観点では、私たちももう少し教育的な領域でサービスや人材リソースを配置することが必要になってくると感じます。

そしてもうひとつのポイントはパッケージ化です。製品パッケージ自体は米国で決まりますが、単なるモジュール的な導入ではなく、準備から育成、定着支援などをワンパックで支援し、皆さんが第一歩を踏み出しやすいような形になっていくのではと思います。

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オプロ浮田

「人材がボトルネックで導入が進まない」「トップが変わっても実行力がない」「導入しても定着しない」といった今後の課題に向けて、人への投資とセットで支援するような感じですね。

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安田

そうですね。あとはリスキリングの感覚をエコシステム全般で支えるべく、現在よりもっと連携が強化されていくと予想されます。セールスフォースだけでなく、DXのツールを中心に有機体として日本企業へ影響を与え、全体を底上げするような機運がさらに強まっていく感じです。

各社がお客様へ育成についてのノウハウなどを提供し、場合によっては他企業とも連携する。こうしたエコシステムの連携が、ITベンダーだけでなく金融機関や教育機関などさまざまな分野へと広がっていくのではないでしょうか。

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オプロ浮田

オプロとしても、さまざまな部分で協力関係を築いていければと思います。

最後に、お客様やエコシステムを構成する企業に対してメッセージがあればお願いします。

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安田

まずは「たくさん失敗しませんか?」ということですね。失敗を恐れていたら、おそらく日本企業はこれから動けません。むしろたくさんの失敗事例を、逆に成功事例と同じような価値としてWebサイトに公開していく。
それくらいのことを、セールスフォースもそうですしSaaSビジネスを手掛けている企業が先駆けて実践していくことが必要だと感じます。

あとは、リーダーの方々にリスクをテイクしてもらう、これは絶対的に必要なことです。どうしても目の前のことに意識を集中しがちですが、企業ではリーダー層の方々が自分の現役期間だけを考えるのではなく、今こそ"リスクを恐れず変化を起こす"べき時です。そしてこうした活動には、企業の垣根を超えたリーダー同士のコミュニケーションにつながる取り組みが、もっとエコシステムの中にあっても良いなと思っています。

私自身もこれまでのビジネスを通じて数多くのリーダー層の方々と接点を持っており、本気で野心を持って取り組んでいる方々は多いです。こうしたネットワークをもっと強化し、一緒に新しい活動に取り組んでいきたいですね。

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オプロ浮田

本日はありがとうございました。本質的なDXに必要なものや内製化への変革の中で企業が取るべき姿勢、御社の強いカルチャーの作り方についてよく理解できました。
安田さん、貴重なお話をありがとうございました!

<プロフィール>

安田 大佑(やすだ だいすけ)

株式会社セールスフォース・ジャパン
常務執行役員 コマーシャル営業統括本部 統括本部長

1977年北海道生まれ。2000年にデルコンピュータ株式会社(現デル・テクノロジーズ株式会社)に入社。営業マネージャーとして法人担当、コンシューマ担当部門の責任者を務めた後、中国の大連では同社オペレーションサイトマネジメントに従事。2008年、IT企業向けにマーケティング戦略立案と実行の受託業務を展開しているアメリカのMarketstar Corporationの日本代表に就任。2010年、クラウド型セキュリティのイギリスのMessagelabs(現在はBroadcom Inc.)にコーポレートセールス シニア マネージャーとして入社。2012年、株式会社セールスフォース・ドットコムに入社。主に首都圏以外の地域を担当する広域部門の責任者として地域創生とデジタルトランスフォーメーションの推進を経験。2019年、Sales Enablement(営業人材開発)部門の責任者に着任。パンデミック、リモート環境下における人材育成モデル開発に従事。2022年より、コマーシャル営業の統括責任者に着任。

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